新川柳作記念館 Ryusaku Shinkawa Memorial

ACE

真夏の夜の楽しみ

入社当初は1日の仕事を終え、夜が訪れると淋しい気持ちに襲われ、郷里を思ったものです。

そんな時は屋上に上がり、夜空に光る星を眺めて郷里の空に向かって歌を唱って感傷にひたったものです。

また、真夏の夜の氷ぜんざいは、そのころの私達にとって忘れがたい思い出の1コマです。お店から15メートル位のネクタイ店の勝手口のところへ、夏の夕方には私達が「吉川のおっちゃん」と呼んでいた人の屋台が出るのですが、その屋台の氷ぜんざいがとてもおいしいのです。しかし、お店は大変規則が厳しくて、夜9時には表玄関の大きな硝子戸は鍵がかけられ出入りができないのです。といって15メートル先では呼んでも声が届きません。一策を案じて私達は小石を集めて、それをバラバラと投げるのです。それが合図で、吉川のおっちゃんは、お店の窓枠のところへ、氷ぜんざいを持ってきてくれたものです。受け取るとすぐ真っ暗闇の地下室へ降りて、ゆっくりと味わったものです。10銭のビックリ氷ぜんざい、ドンブリ茶碗に山と盛られた氷の中にあずきとおもちです。地下室へ入り呼吸をころして食べたぜんざい、呼吸をころしているだけに余計おいしいのです。懐かしい丁稚時代の思い出の1コマです。