１９５２（昭和２７）年１月に入院した私は、病床で読んだ先生の『太閤記』に感動し、この喜びをお伝えし、お礼を申し上げようと新聞社気付で先生宛に手紙を送りました。すると思いもかけず吉川先生より懇篤こんとくなる返書を頂戴したのです。お忙しい中、しかも直筆で本当に感激しました。先生の温かいお人柄にふれるご書面で、私は一層心を惹かれて、ぜひ先生にお会いしてお礼を申し上げたい思いが募ります。そして居ても立っても居られず、無鉄砲なことに先生のご都合をお聞きすることなく「何日にお伺い申しあげます」と一方的な電報を打って、東京のお屋敷を訪ねたのです。

先生はお心のやさしい飾り気のない素晴らしい方で、そんな状況でも私を永年の親友のごとく心からもてなしてくださいました。帰り際には色紙に「我以外皆我師也」と書いてくださり、直筆を頂戴するなど思ってもいなかっただけにとても感激したことを覚えています。

この「我以外皆我師也」を座右の銘として、私が今日どなた様にも手を合わさせていただくのは、このお教えがあったればこそと感謝を申し上げます。