新川柳作記念館 Ryusaku Shinkawa Memorial

ACE

戦時下の創業

代用素材「イーグル」を使用した新川商店の製品第一号(昭和15年)

戦時下の創業だけに原料が思うように入手できない困難はありました。創業半年ほど経った頃のことでした。原料店・川元商店のセールスさんが「イーグル」という、当時としては素晴らしい人絹を塗料で加工染色した素材を持って訪ねてこられました。もちろん「イーグル」は擬革ですから本物の皮革と比べると強度その他で落ちますが、表面は革より傷がつきにくく、当時の代用皮革の主力となっていた和紙に加工した素材より、はるかに強度が優れていました。新素材だけに製品にするには難しさもありましたが、優れた職人さんたちの手で艶のある素晴らしい製品に仕上がりました。

当時は紳士用抱え鞄と書類入れケースの需要が一番多い時代でした。私は毎夜遅くまで、書類入れなどのファスナーに蝋を塗る作業に追われました。こうしておけばファスナーの滑りがよくなり、お求めになるお客様は、何か感じられるだろう。お客様が商品を手にされた時、真っ先に調べるのがファスナーの開閉だからです。少しでも商品がよくなるようにと心を込めて磨きました。カバンに限らずあらゆる商品が不足しており、作れば必ず売れるという時代でもありましたが、一流百貨店の店頭で飛ぶように売れたのです。